「大丈夫?」 木の葉が舞う彼の周りの景色を、太陽の光が射して彩った。いつもなら眩しくて目を閉じてしまう所だったけれど、今はそうするわけにはいかなかった。だって、やっと待ち焦がれたわたしの王子様が目の前にいるのだから! ふわふわで、くるりとウェーブのかかった茶色の髪。柔らかそうなそれは優しい彼の性格を表しているようで、わたしは思わず口元を緩ませながらも、今日もそれを少し離れた所で見ている。(今日もかっこいいなあ枢木さん)彼の名前は枢木スザク。最近、このアッシュフォード学園に転入してきた。彼は軍に入隊しているらしいから一応形としては名誉ブリタニア人となっているけど、やはり元はイレブンだ。それなのにどうしてこんなブリタニア人ばかりの学園に転入してきたのかは、謎である。やはりそれを良く思っていない人は多くて、最初のうちは彼も虐めにあっていたらしいけど、今は昔友達だったルルーシュがいたおかげで皆と仲良くやれているみたい。いつの間にか生徒会にも入っていた彼の活躍は目覚しく、今では彼のことを悪く言う人は少なくなってきた。(ほんとによかった)そんな彼がわたしは大好きで、いつもこうやって同じ教室で彼ばかり眺めている。同じクラスでありがとう!席は遠いけど、近すぎると緊張してしまうから結果オーライ。今枢木さんは生徒会のリヴァルと一緒に楽しそうに話している。羨ましい。わたしもああいう風に話してみたいけど、枢木さんとは特に接点もないし、わたしには彼を楽しませるようなボキャブラリーも備わっていないわけで。だからこうやっていつも彼を見守っている。す、ストーカーとかじゃないよ!まだ帰り道つけたりそういうことはしてないから!(ん?)(まだ?)(いやいやそんなことはしないよ!) 自分の言葉を否定していると、リヴァルとはもう話し終えたようで、いつのまにか枢木さんが教室を出て行こうとしていた。わたしは慌てて追いかける。教室を出ると既に彼の姿は無かったけれど、たぶん枢木さんはあそこにいる。彼の友達でもあり、生徒会のメンバーでもあるアーサーに会いに行くために、きっと中庭へと向かっているのだ。そう予想したわたしは急いで中庭に足を走らせた。 中庭に出ると、今がお昼休みだということもあり、ちらほらと女子たちが固まってお昼をとっていたりしているのが目に入った。けどわたしが探しているのはそんな楽しいランチタイムの光景じゃないから、わたしは目もくれずに枢木さんを探す。「にゃあ」と猫の声が足元で聞こえて、わたしはすぐに下を向いた。そこにはアーサーがいて、わたしを見て嬉しそうにまたにゃあ、と鳴く。アーサーはここにいるのに、枢木さんがいない。(おかしいな)(場所間違えたかな)アーサーを抱き上げながら悩んでいると、ふと何処かから枢木さんの声が聞こえたような気がしてわたしは思わず辺りを見渡す。(!いた!)茶色い髪が見えて、わたしは少しだけ近寄る。近づいて分かったことなのだけど、どうやら彼は誰かと話しているらしい。聞いたことのない声に首をかしげながらその人物を見ると、わたしが見たことのない長身の男の人だった。なぜか白衣を着ている。その風貌に、わたしは新しい化学の先生だろうかと勝手に想像を膨らませた。まあ、そんなことはどうでもいい。枢木さんが見える範囲にあった木に隠れていると、二人の会話が少しだけ聞こえてきてわたしは耳を澄ます。 「やっぱり…じゃない?」 「…は…痛い」 断片的な言葉だけ聞こえて、わけが分からないとわたしは肩をすくめる。(にしても)(痛い?)単語に不信感を感じたわたしは、そろりと気付かれないように二人を盗み見た。そうしていると、白衣の男の人が枢木さんの腕を掴んだ。(は)(どういうこと…!)じいと枢木さんの顔を見ると、なんと彼は痛みに耐えるような、悲痛な表情を浮かべていたのだ。ちょっと待ってこれはもしかしてセクハラとかそういうやつですか?いやでも男だぞ相手は男だぞ落ち着けわたし。でもでも今そういう事多いって言うし…!とりあえず落ち着けわたし!大きく深呼吸をしてから、もう一度二人を見ると枢木さんの口から「…いたい…」という言葉が聞こえてきた。やっぱりあれはセクハラか暴力かなにかなんだきっと!とりあえず枢木さんが困っているんだ、助けないと!そう思ったわたしは勇気を振り絞った。力なんてないし頭もよくなんて無いけど枢木さんを助けられるなら頑張る!アーサーを抱えたままわたしは思いっきり走って、白衣の男の背中めがけて足を向けた。 「覚悟しろ変態!!!!!」 |