窓際最後列、日当たり良好


そんなうたい文句が頭に浮かんで、俺は思わず良い気分になった。さっき俺がくじ箱から引いた紙には大きく数字が書かれていて、黒板にもそれぞれ同じ数字が座席表と一緒に書かれている。その座席表の左端一番後ろにある数字と同じものが、俺の持つ紙に記されてあった。つまりは、窓際最後列、日当たり良好席。俺はさっそくVIP席だなんだと喜んであいつらに自慢をしに行きつつ、の席が俺の席の隣でありますようにと祈って、の肩を叩きに向かった。俺はにやにやしながら集まっているあいつらの所へ行くと、がとても嬉しそうな顔をして俺の名前を呼んだ。自然と頬が赤くなる。(不意打ちは卑怯だろ!)

「哉太はどこの席になったの?」
「俺か?聞いて驚くなよ、なんと、窓側の一番後ろだ!」

俺の答えを聞くと、と羊と錫也は顔を見合わせて、複雑そうな顔をした。どういうこった、と首をかしげていると「ほんと、哉太はついてないね」まるで可哀想なものを見るかのように羊が哀れみの視線をむけてくる。

「どーいう意味だ?」
「あのね、実はわたしたち。5・6・7番だったの」

5・6・7。の言った数字を廊下側最前列に見つけた俺は、うげっと声をあげた。俺の席は左端最後列。の席は右端最前列。しかも錫也と羊と連番ときた。なんて酷い。

「まあ良いじゃない。あんなに日当たりの良い場所、もう二度と座れないかもしれないんだし」
「そう思うなら変われ、羊!」
「僕は願い下げだよ」

思っていた通りの返答が返ってきて、俺は苦々しい気持ちを押し出すとそれを顔に貼り付けた。俺はあまり運がいいほうではないのに余計な期待をしてしまったから、気落ちすることがいつもより重く感じる。

「最悪じゃねえか…」

俺は自分の手元にある小さな紙と、黒板を見比べて、落胆した。




ちえ、ほんとなんなんだよ全く。やっぱ俺の運の悪さは劇的に変化したりしないもんなんだな。うん。あーもう神頼みなんかしねえ。次からは自分の運に頼る。意外とそっちのがいいかもな。…それにしても。これは遠すぎないか?一番前と一番後ろだから、あいつらとえらく距離感を感じる。さっきは連番ということしか聞いていなかったが、どうやら席順は左から羊、、錫也の並びだったらしい。なんだよ間にあいつがいるなんて最高じゃねえか。そういや羊がこっちに転校して来る前にはあんな並びに当たったことは無かったよな。くそ。例えばあれが、俺と錫也でを挟むような席順だったらどんなに嬉しかったか。もしそうなら俺はもう遅刻をしない。寝坊だってしない。たぶん。だが、よく考えたら一番後ろの席ってのはいいな。全体を見渡せるし、何気なくあいつを見ていても気づかれないし、おかしくない。が遠いのは嬉しくないが、これはこれで良い席だ。そうでも思わねえとやってけねえ。…。っておいおいおいおいなにやってんだ羊、ちょっと近いんじゃねえのか!肩があたるだろ!てかあれあたってんじゃねえのか!?あーくそ、ってかなにしてんだ?二人で教科書を覗き込んで…に質問でもしてるのか?どさくさに紛れておいしい事しやがって!うらやま、しくなんかないっつーの!…、ちょっと良いなと思っただけだ。あーあーあー。なんか腹立つ。もう寝てやろうか。と思ったが、生憎今日の空の機嫌はあまり良くなかったらしく、心地のよい日差しをこの席に差し込んじゃくれなかったので、それはまた今度に持ち越すことにした。せっかく日当たり良好なこの席を手に入れたんだから、初めては精一杯堪能できる環境で味わいたいだろ?おとなしく授業を聞くのもなんとなく気分じゃないし、って、?…笑って、手振ってやがる。なんだよ、なんだよ、なんだよ。可愛いじゃねえか。あの笑顔は俺に向けてくれたんだよな?隣にいる錫也とか、羊じゃなくて、俺に。…なんか暑くないか。気のせいか顔も赤くなってる気がする。…やべ。少しうつむくようにして、それがあいつらに見えないようにした。ばれたら、なんてからかわれるかたまったもんじゃない。もう一度を見ると、少し怒ったように頬を膨らましているあいつと目が合った。え、なんだよ。さっき目をそらしたから怒ってるのか?おもしろいくらいにあいつの頬がぷくーっとふくらんで、俺を睨んでくる。それがまた可愛くて、思わず吹き出した。そうするともっと不機嫌になって、はそっぽを向いたかと思うと、べーっと舌を出してざまあみろとでも言いたげな顔をした。思わずぽかんとしてしまったが、すぐに笑いが込み上げてきた。…ひそかにのピンク色のかわいらしいそれに少しどきっとしていたのは、内緒だ。この授業が終われば、あいつをからかってやろう。きっとあいつはまた頬を膨らませて不機嫌そうに俺を見るんだろうな。それがやけに簡単に想像できて、勝手に口端があがっていく。意外とさ、この席もいいもんだな。


(//090329)