「キョンって、チョコもらうあてとかある?」 「………それは俺に対する嫌味か?そういう事は古泉に聞け。あいつなら山積みでチョコ貰うんじゃないのか」 自分で言っておいてなんだが、えらく虚しいことを言ったもんだ。悲しくなって溜息を吐く。ちなみに今日で3回目だ。1回目はハルヒの言動、そして2回目も上に同じく、だ。結論で言ってしまえば俺の溜息は大概、団長様の言葉と行動に左右されるという事である。それもまた虚しい。高校時代も中盤に差し掛かっているのに、一つも青春時代を謳歌していない自分に悲しくなりながら、夕陽が影ってオレンジ色に染まる文芸室で、それと一緒に染まっていきそうなを見た。今俺は、SOS団ホームページの管理をしているためパソコンの前に、そしては机のそばにある椅子に座っている。いつもは長門が陣取っている席だ。 「ふうん、そっか」 「…なんだよ、ならお前がくれるのか?」 「え?」 本気を冗談で隠したつもりだった俺の言葉は、には綺麗そのまま本音で伝わってしまったようだ。しまった。今まで直隠しにしてきた俺の苦労がまるで水の泡だ。こんな風にふられたんじゃ、たまったもんじゃない。失恋のアフターケアも効きやしねえ。そもそも失恋にアフターケアがあるのかさえも定かじゃないが。失言に焦りを隠せない俺は、手元にあったマウスを無駄にクリックして、かち、かち、と音を鳴らす。その音だけが文芸室に響いて、余計に緊張した空気を作ってしまった。やばい。古泉なら上手く切り抜けそうだ、なんて馬鹿らしいことを考えていると「私のでいいの?」とが聞いてきた。 その言葉に、俺はクリックを中断してを見た。驚いたのだ。まさか、の口からそんな言葉が出てくるとは一切思っていなかったし、こんなおいしい展開にありついた事が無かった俺は、これはSOS団絡みのドッキリかと考えた。思わずきょろきょろと周りと見渡したが、誰もいやしない。窓から外を覗いても、部活帰りの生徒が目に映るだけだ。「…キョン?」と不思議そうに尋ねたに「なんでもない」と慌てて返して、俺はパイプ椅子に座った。 「……、くれるのなら、ありがたい」 を直接見て、それを言えるような度胸は俺には無い。だから俺はパソコンと睨めっこをしながらさっきの言葉を言った。ディスプレイにはこれでもかというほど情けない俺の顔が映っている。俺の頬が赤いのはきっと夕陽のせいなんかじゃない。左胸にある心臓がこれ以上ない位に高鳴っているからだ。どきんどきん。もしかして今俺は青春時代を満喫しているしているのかもしれない。ぎしりと大きく音を立てて(いつもは気にならない程度の音だったが今は違う)が椅子から立ち上がった。驚いた俺の視線はそのままに注がれる。俯いていたはこっちを見て、その大きな瞳が俺を捕らえた。 「じゃあ、バレンタインに!」 軽そうな鞄を持って、は文芸室の扉を開けて「ばいばい」と言った。の鞄に遠慮気味に一つだけ付けられたキーホルダーが揺れて、見えなくなると同時に扉が閉まった。俺は、がいなくなってもその扉を唖然として見つめていた。出て行く瞬間、にっこりと微笑んだかのように見えたの唇は、少し震えていた。「楽しみにしておいて」とが言い逃げしたその言葉が頭の中で繰り返される。甘い甘いそれこそ、菓子のような言葉。の頬が真っ赤に染まっていたのはきっと夕陽のせいなんかじゃない。きっときっと俺と同じで、 放課後のチャイム 静かな文芸室にチャイムが響いて俺の心臓はまた、高鳴った。 (//20080214 title by 1204)
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