あいつがわたしを見ていないことなんて分かってた。けど、今言っちゃわないと、全部消えて無くなっちゃうような気がした。「好きなの」持っている箒の柄をぎゅっと握り締める。ちゃんと彼に、とどけ、とどけ届け。また一段と強く柄を握ると、さっき一箇所に集めた枯れ葉が舞って、散らばった。はらはらと風で舞うそれを見て、せっかく集めたのにな、なんて暢気な事を考えながらぼうっとする。どうしてわたしはこんなにも冷静なんだろう。大切すぎて呆けてしまっているのか、ほんとうは、この気持ちなんて、どうでもよかったのか。それは分からないから、わたしはとりあえず獄寺の返事を待つ。困ったように目を泳がせていた獄寺の口からは歯切れの悪い言葉ばかりが零れて、最後に「…わりい、」と遠慮がちに謝った。そのときの獄寺の顔は、ほんと稀にしか見れないような情けない顔だった。いつもは無駄にはねて見える髪の毛も、一緒にへこんでいるように見えて、「ごめん」と思わず謝ってしまった。わたしが、獄寺を困らせている。「…なんでお前が謝んだよ」「うん、分かってるけど、じゃあ、ありがとう」真顔で獄寺を見てそう言うと、獄寺は目をぱちぱちさせてから、さっきまで見せていた困り顔を少し残して、笑った。「やっぱお前、変だな」 そっと足音しのばせて 帰り道を一人歩く。別に、ここが明るい街並みだなんて今まで思ったことなんてなかったけれど、状況が状況だけに、なんだか物悲しくなる。たぶん昨日までは綺麗に見えていた夕陽も、それに染まっていく並盛も、今ではわたしの涙を誘うものにしかならなかった。どうしてこんなに苦しいのかな。ひくっ、と咽を鳴らして歩くわたしは周りから見れば浮いた存在だっただろうけど、今は誰もいなかった。いつもは車どおりも人も多い道なのに、一つも車は走っていないし、人っ子一人いない。世界に一人だけ取り残されてしまったような気がして、寂しくなった。そんなときわたしの携帯が音を鳴らした。よかった、一人ぼっちじゃなかったんだ。携帯を開くと、山本武という文字と一緒に着信マークが表示されていた。今電話なんか出たくなったし、電話をとってもまともに話せる状態じゃないってことは分かってたけど、山本には話を聞いてほしかった。彼には、獄寺とのことをずっと相談にのってもらっていたから。山本にはまた甘えるようで、悪かったけど。「、もしもし」「あ、か?わりいんだけど、ノート貸してほし、……?」電話越しに聞こえてしまったのだろう、わたしの泣き声を耳にして山本は心配そうにわたしの名前を呼んだ。山本の心配している顔がすぐに浮かんで、ほんとに良い奴だ、と零れてくる涙を見ながら思った。「…っへへ、フラれ、ちゃったんだ」「……そっか」冷たい風が吹いてわたしの体を冷やす。この冷たさで涙が乾いて、結晶になればいい。涙の結晶は失恋記念日の今日に、ずっと残しておくのに。「」「…、なに?山本」「ちょっと待っててくれ、」そう言って山本は電話を切ったらしく、プープーと寂しい電子音が耳の奥まで響いた。山本はああ言ったけど、何を待てばいいのだろう。わたしはこの場所で動くなということなのだろうか。しょうがないので、とりあえずわたしは家への帰り道へと足を進めた。少し歩いたところで、また着信音がなって、画面にはまた、山本武と表示されていた。けど今度は電話じゃなくて、メール。それには画像が添付されていることがマークで分かった。縮小されていた画像は、「…き れい」夕陽に染まってなんとも言えないグラデーションを見せている並盛の風景だった。見たことがあるはずなのに、初めて見るようなその風景に見入っていると、また山本からメールがきて、慌てて次のメールを開くと今度は海辺の砂浜の写真が添付されていた。海辺に見入る暇もなく、また次のメール、次の、とたくさんのメールが送信されてきた。どれも綺麗で、わたしはその画像に心を奪われているのが分かった。空っぽになった心に、何かが埋まっていくような感覚。少し間を空けて、また山本からメールが来た。今度はどんな風景だろうと少し楽しくなりながらメールを開くと、そこには「元気出せ!」と一言だけ書かれた文章と、一枚の画像。その写真は、わたしが一番好きな、並盛中の屋上からの、風景だった。 その一言だけで救われただなんて! (//080223 title by hazy img by水珠) |