いつものようにウチはの部屋で、自分の作業室から持ってきたパソコンをいじりながら緑茶を飲む。最初はわざわざ行き来する度にパソコンを持って帰っていたのだが、もうそれをすることも面倒になったからの部屋にウチのスペースを作ることにした。そう言えばは驚いていたが、「別にいいよ」と軽く承諾してくれた。たぶん、の邪魔さえしなければ追い出されることもない。
湯のみに注いだ熱いお茶を少しすする。芳しい匂いに酔いしれながらも、やっぱり神秘的なそれに満足げな声を出すと、が「ほんとに好きだね」と呆れるように言った。任務帰りの彼女は今、真っ白い隊服を羽織っている。真っ白い隊服はの白い肌に重なって見えて、赤が映えそうだと思った。そういえばウチがブラックスペルだという事を知った時には、隊服を着せてとねだったな。どうやら、はブラックスペルの隊服の方が気に入っているらしい。真っ白いホワイトスペルの服は汚れが目立つから嫌だと愚痴を零していた。きっとがウチの隊服を着ても似合うだろうけど、ウチは白いそれがに合っていると思ったので貸さないでおいた。まあ、実は隊服なんて何処にやったか分からないってのが本音だ。

「すず ら、ん」

ばら、綿、ふじ、ひまわり、すみれ、つばき、そして、すずらん。これはミルフォーレの部隊名となっている花の名前だ。この前、に日本語を教えてくれと言ったら「じゃあ、まず部隊名覚えようか」とウチに紙とペンを渡してきた。首をかしげていると「発音しながらノートにその単語を書けば、部隊名は日本語で覚えられるから」そう言うはなんだか楽しそうだった。たぶん、母国である日本を勉強しようとしているウチの姿勢が嬉しいのだと思う。うん、たぶんそう。はウチにお勉強セットを渡すと羽織っていた隊服を脱いだ。真っ黒いTシャツが見えて、ああやっぱり黒も似合うなとウチは確信を持った。
ウチが机に向かって書き取りをしているのをいいことに、はウチのスペースにあるパソコンの前に座った。「調べたいことがあるから、少し借りるね」はウチの返事も聞かずキーボードを叩き始める。この人は少しだけせっかちだ。







少し時間がたつと、さすがに手がしびれてきてウチはペンを手放す。モスカを整備するときに工具をずっと持っていても、こんなに疲れはしなかったのに。これじゃあまりすぐに習得は出来ないな。そのとき、ふと視線を感じて机と睨めっこしていたウチは顔をあげてを見る。

「好き」

まるで今にも消えてしまいそうな、心細い声が静かなの部屋に響いた。パソコンに向かっていたはずのがウチを見て、何かを告げたのだ。今のは、日本語だ。それを口にした後もはじっと見つめていたかと思うと突然目を逸らし、気まずそうに俯く。聞き間違いかと思ったが、今の反応を見た限りではそうじゃないのだろう。ウチは立ち上がって、未だ俯くの横に座る。あんたはたぶん、日本語ならいくらその言葉を告げようと、全くわからないんじゃないかと思ってたんだろ。まあ、それもそうだ。ウチはこの間初めて、に日本語を教えてくれと言ったのだから。知らないと思っていても無理はない。けど、。甘いな。

「 すき、」
「!どどどどうして」

そのときはようやく顔をあげた。その頬が少し紅潮して見えたのは、目の錯覚なんかじゃなかった。だってさ、…分かるか?ウチとが同じ言葉を発しただけじゃなく、全く同じ気持ちで。つまり、お互いの矢印は向き合っていたということだ。ウチはその言葉をずっと練習していたし、この機会を待ち望んでいた。いくら口にする回数を増やそうと、つたない発音だという事は変わらなかったけど、意味は同じだ。が言った意味と、同じ。

「それだけはあんたに言ってやりたかったから、先に調べた」

紅潮していたの頬がもっと、赤くなった。ほら。やっぱり、赤が映える透き通ったような白があんたには似合ってる。




3時のおやつみたいな恋


(//080407 title by 酸性キャンディー)