12時。日も高く上って少しお腹が空いてくる、お昼どきの時間だ。天気もいいこんな日は、テラス席のあるカフェで紅茶とサンドイッチなどを頬張るのが好ましい。普通の女の子なら、これくらい造作も無いことだ。けど残念ながらわたしは普通の女の子ではない。俗に言うマフィアというやつに所属しているからだ。普通とは程遠い。悲しきかな、むしろそんな言葉はもうすっかり忘れてしまったかもしれないくらいだ。しかも今のアジトは地下にある。そのせいで地上の光をここ何日と拝めていなかった。けど、今日久しぶりに太陽の光を浴びることが出来た。数日ぶりに見た太陽は綺麗で、わたしには眩しすぎる程だったけど、お日様の光はやっぱり毎日浴びるべきだと思う。久しぶりに浴びると、なんか…こう、眩しすぎて日差しが痛い気がするのだ。気のせいかもしれないけど。…ああ、話が逸れた。とりあえずわたしはさっきサンドイッチやパスタを思い浮かべていたせいで、もう洋食が食べたくて仕方なかったのだ。今日のランチはパスタに決まりね!この間買った大きなお鍋でパスタを湯がいて、ソースは絶対ミート!自分でソースも作っちゃおう。そんな自分との小さな取り決めにわくわくしながら任務を終わらせたわたしは、自分の部屋を開けた。 「おかえり」 「……た…だいま」 誰もいないはずのわたしの部屋には、なぜかスパナがいた。何食わぬ顔をしてお茶をすすっている。それはわたしの湯のみ!君のじゃないよ!とりあえずおかえりと言われたのでただいまと返しながらソファに腰を下ろすとスパナが「、ん」と湯飲みを渡してきた。それを覗き込むと、そこにはやっぱりスパナの好きな飲み物である緑茶が入っていた。「もしかしてわたしが任務帰りだから、わざわざお茶を淹れてくれたの?」スパナはきょとんとした顔をして「その方がよかった?」と聞いてきた。いや、別にその方が良かったわけじゃないけど、もしそうだとしたらスパナが少しでもわたしの事考えてくれたんだなーって分かるから、嬉しいっていうかさ、…これはその方がよかったってこと? 「そうだったら嬉しかったかな」 「じゃあ、そうだな」 「……別に嘘つかなくていいよ」 嘘をつかれてまで、その言葉が欲しかったわけじゃない。ああ、もう、虚しいというか悲しいというか、(…はあ)溜息を吐くけどそれを気にする様子もなくスパナはまた緑茶をすすった。きっとこのお茶は、ただ単にスパナが飲みたかっただけで、彼がお茶を沸かした時間と、わたしの帰ってきたタイミングと重なっただけだ。わたしがうつむくと、目の前でゆらゆら揺れるお茶にわたしの顔が映りこむ。それを見て、わたしは何かがひっかかった。あれ。何か、忘れているような気がする。大事な事を、すっかりと、 「パスタ!」 「パスタ?」 「そうよパスタよパスタ!」 どうして忘れちゃってたんだろう!わたしはさっき思い浮かべていた通りに、大きなお鍋を出そうとキッチンに向かった。どこにしまったかな。なんて考えながらキッチンを見ると、自分が作った覚えの無い物が置いてあってわたしは首をかしげる。三角形とは言えない形のおにぎりが二つ、そこに置かれていたのだ。ぼろぼろで、触ってしまえば今にも崩れそうなおにぎり。部屋を出て行く前にこんな物を作った覚えは無かったし、何よりわたしならもうちょっと上手くおにぎりを作れる。まさか。わたしは後ろを振り向いて、暢気にお茶をすすっているスパナを見た。 「…スパナ。これってさ、もしかして」 「ああ、が食べると思って作ったんだ」 「……わたしの為に?」 思わずぽかんとしてしまう。「まだなんだろ?昼」スパナのその問いに無言で首を縦に振ると、彼は口に飴を含んだ。いつもわたしの事なんて気にもしてないスパナが、わたしの為におにぎりを握っていてくれたなんて!(こんなの、不意打ちすぎるじゃない…!)「ああ」いつの間にかキッチンの方にいたスパナが声をあげたのでわたしがそっちを向くと、 「これは嘘じゃないからさ」 スパナが差し出したおにぎりは、いま彼が触ったせいで形をとどめられていなかった。不器用。一言で言ってしまえばそれで片付けられてしまうおにぎり。けど、わたしにはその言葉だけで押えられなかった。だってそんなの、当たり前じゃない。 「パスタって何?」「ああ、もうどうでもいいの!忘れて!」 |