a delusion,a vision,a love
迷いだった 夢だった 恋だった



ダイゴさんは、自分で石を掘り返したりはしないのだろうか。だって石が好きだといっていたくせに、ダイゴさんの指はとても綺麗で(まるで女の人のものみたい)爪に土なんかが入っている所を見たことがない。化石が好きだからよく発掘作業をしていると言ったクロガネのヒョウタさんは、やっぱり土まみれだったことを思い出した。

ティーカップに入った紅茶を音も立てずに啜って、彼は優雅にそれを机の上においた。かつん、と金属同士が触れ合った音が聞こえて、ダイゴさんから放しかけていた視線を戻す。指輪だ。彼の長い指にはめられている指輪がティーカップに当たって、音が鳴ったのだ。

そういえば彼は、わたしと出会う前から指輪をしていた。男の人なのに指輪なんて珍しいなあと思っていたけれど、その指輪には赤く光る石がついていたので、きっとそれはダイゴさんのお気に入りの石で、身に着けておきたかったから指輪にしたのかもしれないと思った。けど今のわたしにはダイゴさんがどれだけその石を愛しているとかそんなことはどうでもよくて、その指輪自体が気になってしょうがなかったのだ。彼は、左手と右手にそれぞれ2つ指輪をつけている。一つは、人差し指。もう一つは。「どうかしたの?ちゃん」ただ一点を見て黙り込んだわたしを不思議に思ったのか、ダイゴさんは問いかける。

「…その指輪、」
「うん」
「人差し指と、薬指にはめてますよね」
「そうだね」
「ダイゴさんって恋人いたんですか?」

ダイゴさんはぽかんとわたしを見た後に、少し下を向いて自分の左手の薬指にはめられている指輪をじいと見た。左手にある薬指、それは愛の進展を深める指。あの石が素晴らしいとか結局僕が一番強くてすごいんだよねとかなんとかそんなことばかり言っている人がロマンチシズムを知っているとは思えないけども、さすがにその意味は知っているだろう。色々な所をふらついてはいるが、彼は言うところの御曹司で、加えてポケモンリーグチャンピオンだ。これだけ大物なら、婚約者の一人や二人(さすがに二人は駄目か)いてもおかしくなんてない。

(…というか、)わたしはそれを確認してどうするつもりなんだろう。どう、なりたいんだろう。たぶん諦めきれなくて、少しでも希望にすがっていたくて、わたしは彼にこの質問をした。彼がNOと答えてくれないだろうかとほんの少しでも望んでしまったから、聞いてしまったんだ。「…それは」ゆっくりとダイゴさんが口を開いた。

「君じゃなかったのかい?」

ダイゴさんはどうしてか頬をほんのり桃色に染めて、困ったようにわたしを見た。まるでわたしの気持ちをうかがっているようだった。今度はわたしがぽかんとしていると、耐え切れなくなったのかダイゴさんはまた視線をティーカップへ戻した。それを見て、わたしも同じように頬を赤くする。どうして、彼の頬は赤くなっているのだろう。どうして、あんなことを言ったのだろう。「ああ ほんと、困るな。」ダイゴさんは苦笑して、ティーカップの紅茶を飲んだ。


こんなに難しいだなんて思ってもみなかったよ。
そして彼はわたしに微笑みかけるのだ。


(//081005)