冷たい風がわたしの頬を撫でて、思わず震え上がる。びゅうと耳元で強く唸ったそいつらは、わたしの髪を躍らせた。冬が嫌いというわけではないけれど、耐えられないくらいに寒いのは嫌いだ。次に来る夏の熱を少しだけでも分けてもらいたいなんて思う。けどきっと来年夏がくれば、その時は次の冬の寒さを分けてくれと願うのだ。(…もし)それを皆が願ったとしてそれを神様が叶えてしまったら。季節なんてきっと最初から無かったかのようになってしまうのだろうか。

「ねえ。どう思う、高杉」
「……何がだ」

高杉は隣にいるわたしを呆れたように見て、またすぐに前へと向き直った。わたしより少しだけ身長が小さい高杉は、ほんのちょっと目線を上にしないとわたしとは視線が合わない。だから彼はあまりわたしとは目を合わせようとしないし、今みたいに見てくれたとしても、ほんの数秒だ。別に、見つめ合ってたいとかそういうのが、(…)無いわけじゃないけど、やっぱりちょっと、寂しかったりする。

「季節が分からなくなるのは、嫌?」
「そんな事ありはしないんだから、嫌も何も無い」
「うわっ冷たい高杉!なんかこう…季節が無くなると物寂しいとか、風流が無くなるとか、そういう意見は無いの?」
「無いな」

これ以上馬鹿馬鹿しい話に付き合っていられないぞ。高杉はそう言って両手を制服のズボンのポケットに入れた。よくよく見てみれば、この寒い日に彼はマフラーもしていないし、もちろん手袋でさえはめていない。対照的にわたしは高杉がしていないものを全て身につけている。もしかしなくても、寒いのだろうか。というかこんなに完全防備しているわたしも寒いのに、耐えられるわけがない。「寒いの?」ズボンに入っている手を見て言うと高杉は「いや」そう言った高杉の口からは白い息が漏れていた。

わたしはため息を少し吐いて「高杉」彼の名前を呼ぶ。こっちを見た彼の首に、マフラーをかけた。「な、」高杉にしては珍しい声を出して、高杉にしては珍しく驚いていた。その表情がなんだか可愛くて少しどきりとする。(ほんと)(寒いなら寒いって言えばいいのに)

「見てるこっちが寒くなっちゃう」
「……」
「…高杉?」

視線をあっちこっちに泳がせている高杉は、どう見ても落ち着いている様子には見えなかった。「嬉しいんですよね、高杉くん」挙動不審な高杉の後ろからひょいと顔を出した吉田くん(いつから居たんだろう)が楽しそうににこにこ笑って言った。それを振り返って高杉は「べ」少し上ずった声をあげた。

「別に、そういうわけじゃないさ」

いつもの声音で呟いたその言葉を聞いて吉田くんは、ふうんと楽しそうにまた可愛く笑った。高杉は悔しそうに吉田くんを見ていたかと思うと、突然こっちをじっと見て、自分の首にかかっているマフラーに手をかけた。少しだけ解いたそれをわたしの首と高杉の首にかけて、(え?)

「…これでも寒くない」

二人で一つのマフラーを使うには、肩がぶつかる位に近づかなければならないわけで、わたしと高杉は今とても近い状態で、あれ、どうして頬がこんなに熱くなるんだろう。ぼうっとした頭で高杉を見ていると、彼の頬も少し赤く染まっているように見えた。「ねえ高杉」さっきまでいた吉田くんはいつの間に退散したのだろう。そんなことが分からないくらいにわたしは高杉が気になって仕方なかった。

「季節が分からなくなるのは、嫌?」
「……嫌かもしれないな」



噛み付く思い


絡みつく恋


(//081105)