「…あれ?」 目を開くと、そこには冷たい床があった。意味も分からないまま、身体を起こす。くらくらする頭を何とか動かそうと、頭を小突きながら辺りを見渡した。わたし、どうしたんだっけ。この状況からするに、床で寝ていたか気絶していたんだろうけど、わたしはそんなにだらしない性格をしていない。(…はずだ)きょろきょろしていると、視界の隅にきらりと光を反射させているものが映って、わたしはそれに駆け寄った。わたしの身長の2倍ほどはある鏡が、そこにはあった。とりあえず髪でも整えるかと、わたしは鏡を見て、目を大きく開く。手も足も、身長だって、すべてが短い。(というか)ホグワーツに通っていた頃のわたしが、そこにいた。長い年月をかけてやっとの事で伸ばした髪だって肩ほどまでしかない。どういうことだろう。もしかしてこれはみぞの鏡なのかと不審に思ったわたしは目の前のそれを杖で叩いてみるが、何も起こりはしなかった。あれ。これはもしかして本当に、「そこにいるのは誰かな」聞きなれた声だった。かつん、かつんと響く靴の音がどんどんこっちに近づいてきて、わたしは後ろを振り返る。足元だけが光に照らされて見えなかった顔に光が当てられて「今は授業中のはずだよ、早く教室に、…」彼は言葉を詰まらせてから、わたしを驚いた顔で見て苦笑した。 「もしかしてもう老眼か何かかな、私には君がに見えるんだが」 「リーマス!」 わたしは喜びを抑えられずに、彼に抱きついて頬にキスをした。 どうやらわたしはタチの悪い呪いにかかってしまったらしい。わたしが倒れていた少し前の記憶が、綺麗さっぱり抜けている。つまりどうしてあんな所にいたのかが全く分からないのだ。リーマスが調べてくれたが、これは時間が過ぎれば元に戻る魔法のようだから、今は大して気にしていない。 「まさか、君がそんな姿になっているだなんて思いもしなかったよ」 「そんなこと、わたしも思いもしなかったわ」 リーマスが淹れてくれた紅茶をすすりながら文句を言うと、また彼は苦笑した。ああ、ほんとうに変わらない。学生時代に隣で見たこの笑顔は、今も昔も変わらずに輝いている。「リーマスの笑顔が輝いて見えるのは、あなただからよ」そうリリーに言われたのを思い出して笑った。そんなことももう、すっかり忘れていたのに。もし、彼女が彼が生きていたなら、そんなことをまたわたしに笑って告げただろうか。 「全く、君らしいね」 感傷に浸っていたわたしを、彼が現実へと呼び戻す。「何が?」「私たちを驚かせてばかりのそういう所だよ」リーマスはわたしに微笑んだ。「ある意味、真の悪戯仕掛け人だったよ」わたしの座っている椅子がきしんだ。わたしが後ろに体重をかけたからだ。 「そういえば、…そうだね」 「うん、本当にね」 そうして、何も言わなくなる。何も言えなくなる。手にある紅茶のカップが音楽を奏でて、この静かな空気を消し去ってくれればいいのに。 「」 「なに?」 「実は、のことが好きだったって言ったら驚く?」 「…実は、わたしリーマスのことが好きって言ったら驚く?」 リーマスはカップを置いて「いや、きっと驚かないだろう」そう言って笑った。 「昔の私なら驚いたかもしれないね」 |