ああ、もう「ついてこないで!」

くるりと振り返って、馬鹿みたいにわたしの後ろで立っていた男にそう告げると、彼はまるで「冗談がうまいなあ」とでもいうように笑った。ああ、わたしはこいつと出会ってから一体どれくらいの月日が経ったのだろうか。最初は綺麗だと思ったこの胡散臭い微笑みも、最初は吸い込まれそうだと思った眼鏡の奥に光るエメラルドグリーンの瞳も もう、見飽きたと思ってしまうくらい、わたしはこいつに付きまとわれているのだ。

「わたしはあなたが嫌いなの!」
「ああ、素直じゃないあなたも好きですよ」
「分かる?はっきりとき、ら、いって言ってるでしょう!」
「そんなに俺への愛を叫ばなくとも聞こえていますから、先輩」

売り言葉に買い言葉。ちょっと意味は違うがそんな感じでわたしたちの会話は留まることを知らない。(というか)(こいつが終わらせてくれないんだけどね!)キッと意思の強い瞳と思いを突きつけてわたしはミハエルを見る。けれどこいつは怯むことなんて知らないかのように、いつもの余裕な笑顔を浮かべた。ああ、ばからしい。どうやら、こうやってわたしが彼を嫌いだと言い続けるうちに、なぜだか学園中で公認カップルのような扱いになってきているらしい。どうしてそうなるんだ。わたしははっきりとこいつが嫌いだと言っているのに!

確かにこいつの顔はかっこいい。友達にどうして断るのか分からないと首を傾げられたことだってある。性格だって少し問題ありなところもあるが、別に悪いやつじゃない。わかってる。わたしだって彼が嫌いじゃないことくらい、分かってる。けれど、美星学園一の女たらしで有名なミハエルがわたしを気に入ってしまったことは少し不自然で、少し、怖かった。

「どこへ行くんです?」
「あなたのいない所!」
「それは難しいですよ。俺が先輩から離れられることは無に等しい」

楽しそうにその甘い言葉を口にする彼に背を向けてわたしは歩きだす。ほんとうに、どこへ行こうか。確実に付いて来るであろうミハエルを追い払える所なんてあるだろうか。そんな事を考えていると後ろで「やれやれ」という声が聞こえてわたしはまたミハエルを振り返る。

「…ねえ、どうしてわたしに付きまとうのミハエル」
「どうしてって、だってほら」

ミハエルのやけに白い指がわたしの髪に触れて、思わずびくりと大きく肩を震わせてしまった。彼の指がわたしの頬でとまって、手のひらがやさしく頬を撫でる。そうしている間に残った彼の左手がわたしの肩に乗せられて、彼のエメラルドグリーンの瞳がとてもとても近くにあることに気づいたときにはもう遅かった。「ミハ、」綺麗に微笑んだミハエルは屈んで、わたしにやさしくキスをした。

「の動作一つ一つが、俺を好きだってアピールしてくるからだろ?」


ねえ僕の殺し方を教えて
じっくり おくまで ぼくいろにそめてあげる
あげようか



(//081106 title by 酸性キャンディー)