「…ルルーシュが困ること、ね」
「あれ、君も考えてるのかい?」
「いやあ、なんか面白いかなと」

暇つぶしにもなるし、と付け加えたわたしにスザクはそれが本心でしょと返した。スザクの言葉は図星だったので、あえて返事は返さなかった。生徒会室では、今話題にあがっているルルーシュ、ただ一人を除いて、残りの面子が楽しそうに騒いでいる。事の始まりはルルーシュに恋焦がれているシャーリーがその”ルル”の事を心配していると、毎回の如くそれを面白がったミレイが、なんでかルルーシュに困った顔をさせようと言い出したのだ。結論で言えば、最近生徒会室、いや、学校にさえも顔を出さないルルーシュに罰を与えようという事だ。くだらないと言えばくだらないが、いい暇つぶしにはなる。会長の餌となったルルーシュには悪いが、せっかくなので存分に楽しませてもらうことにする。楽しいお菓子を味わうには、紅茶が必要だ。わたしは席を立って、生徒会に備え付けてあるティーカップに紅茶を注ぎに行った。

「あれだよね、ルルーシュを困らせたいならナナリーを使えばいいと思う」
「…いきなり核心だね」
「でしょ?他にも色々あるけど、結局さ、あいつは抱え込みすぎだと思うのよ」

トレイの上でぐらぐら揺れるティーカップを落とさないよう気をつけて、椅子に腰掛けながら、紅茶入りのティーカップをスザクに差し出す。視線を上にあげると、何故かスザクはきょとんとした顔でわたしを見ていた。わけが分からなかったわたしは訝しんでスザクを見返した。アールグレイは嫌いだったのだろうか。この間飲んでいたような気がするのだが。

「珍しいね、ルルーシュの心配?」
「……私が心配なんてしないのは知ってるでしょう?」

なんだ、そういうことか。アールグレイが嫌いじゃなくて良かった。安心の溜め息をこぼして、例えるならこれは忠告よ、と返す。決して心配しているわけではないという事を分からせたくて、少し眉を寄せて目の前にあるティーカップの紅茶を一気飲みした。ソーサーに置くと、自然と陶器と陶器の当たる音が鳴る。ひびが入っていないか心配になって、ティーカップを持ち上げて下を覗き込んだ。傷ひとつなく、綺麗な状態のそれが目に入ってわたしは胸をなでおろす。

「…大事な物が多すぎるのよ」
「そう?大事な物が多い事は良い事だと思うけどな」
「多すぎるのは良い事じゃない。重荷になる」
「……軍人らしいね」
「それはどうも。ってスザクもでしょうが」

既に何も入っていないティーカップをすすり、無くなっていた事に気付く。消えていたことを今更気付いてもしょうがないのだ。後から分かっても、戻ることのないものは後悔したって、綺麗そのままで帰ってくることなんてない。

「………でも僕は、全部、手放したくないな。ほら、よく言うでしょ?『守りたいと願う強さが力になる』って」

そんなものはきれいごとだ。本当にそれが強さになるだなんてない。ない。ない。ティーカップに沈んでいた視線を目の前にいるスザクにあわせると、彼は屈託のない笑顔でわたしを受け止めた。突然の笑顔に柄にもなく心臓が高鳴って、すぐさま視線を逸らす。ときめいてしまったことと、この人なら、と少しでも思ってしまった自分が悔しくて、憎まれ口を叩く。

「…どこかのヒーローですか、あなたは」
「あはは、そうなれたらいいかな。…だから、も救ってあげるよ」



こんなに弱いあたしを
どうしてきみが救おうと云うのだろう

(返事もしないで、また何もないティーカップを すすった。)
(//20080202)