「………3、3、3、2、2、…?」

いつも賑やかな生徒会室から聞こえてきたのは、楽しそうな会長の声でもシャーリーの悲鳴でもなく、俺の小さなちいさな呟きのみだった。今、俺は一人、椅子に腰掛けて自分の携帯と見つめ合っている。難しい顔をしている俺を傍から見ると、それと睨めっこをしているかのように思えるかもしれない。こんなに悩んでいるのも、これのせいだ。行くあてのない文句をメールにぶつけながら、俺はまたぶつぶつと小言をつぶやく。

少し前、俺の携帯に差出人不明のメールが送られてきた。誰が送ってきたのかも分からない事に加え、その内容も意味が分からないものだった。いつもなら迷惑メールかと放置してしまうところだが、なにかそのメールに引っ掛かるところがあったせいで、俺は未だに考え込んでいる。ゆうに1時間は経っている。「33322」とルルーシュはまた口に出してみるが、全く意味が分からない。なんなんだこれは。何通りかの可能性を考え出していると、生徒会室の扉が開いて、スザクが入ってきた。俺を見つけると一瞬笑顔を浮かべたが、すぐにそれを固まらせた。お前もなんなんだ。

「…ルルーシュが難しい顔してる」
「悪いか?」
「別に悪くはないよ。ただ、珍しいなと思ってさ」

そう言ってスザクは机に紙の束を置いた。どうやら書類を届けに来たらしい。その束からちらりと「企画書」という文字が覗いた。また会長のお祭り癖か。膨大な書類を見て何をやらされるのかとげんなりしたが、俺の手に握られている携帯の画面を見てもっと嫌になった。仮説を作って考えていくが、一向に答えに近づく気配は無い。全く、いい加減飽きてくる。「そうだ」と目の前で書類を整理しているスザクを見る。スザクは突然声をかけた俺にびっくりしていたが、「なに?ルルーシュ」とすぐに返事を返してきてくれた。

「…、これを見てくれるか?」
「え?…ああ、これが何だい?」
「これは何なんだ?」

スザクは携帯を覗き込むのをやめて、不思議そうな顔をしながら俺の向かいの椅子に座った。俺を見据えてから、「知らないの?」と確認するように聞いてくる。「知らないから聞いているんだ」そう返すとスザクは不思議そうな顔を崩して、微笑んだ。こいつが小さい頃は、浮かべることが少なかったものだ。いまでは見慣れてしまっているそれを横目で見て、俺は携帯の画面をもう一度睨む。

「ルルーシュが知らない事もあるんだね…珍しい」
「煩い。で、これは何なんだ。」

話を元に戻すと、「ちょっと待ってね」と俺に一声かけて、スザクは自分のポケットから小さな紙とペンを出した。さらさらと素早くそこに何か書いたかと思うと、「はい」と紙を渡して来た。わけが分からないまま、俺はとりあえずその紙を受け取る。真っ白い紙のど真ん中に綺麗な字で『1→あ 11→い』とだけ書かれていた。まじまじとそれを見ていると「ヒントだよ。ルルーシュ、答え言っちゃったら怒るだろ?」とスザクが笑って言った。その通りだ。苛立ちのあまり、俺はスザクに答えを求めたが、いつもならヒントを小出しにして考えるほうが好ましい。一気に答えが分かってしまったら、つまらないだろう。やはり小さい頃一緒に住んでいただけはあって、俺の事を分かってる。わざわざヒントを与えてくれたスザクに礼を言いながら、俺はまた紙を見た。

「…こ、………あぁ」

少し疑問を投げかけようとしたが、意味を理解した事でその必要は無くなった。要らなくなった紙をくしゃりと潰して、ゴミ箱へとそれを投げ入れる。かこん。珍しく一発で入った事が気持ちよくて、少し笑みを浮かべた。「あれ、僕の熱意はどこに行ったの?」とそれを見ていたスザクが少し冗談めかして言った。「ゴミ箱行きだ」と俺も同じように冗談交じりで返すと「教えないほうが良かったかな」とスザクが言った。スザクは楽しそうに笑っている。なんだか懐かしい。

「ルルーシュ、差出人の目星はついてるの?」
「愚問だな。決まっているだろう」

俺は口端を吊り上げてほくそ笑んだ。「すき」彼女が送ってくれたであろう文章に思わずにやにやしながらも、俺は生徒会室の扉を開けた。彼女を探して、俺は学園内を歩き回るつもりだ。まあ、大体目星はついている。こんなメールを送ってきたんだ。きっと、俺に見つかりたくなくてどこかに隠れているのだろう。早く会って、メールの返事を告げてしまいたい。こんな事にすら笑みを零せる。愛しいと思える。


それを恋と呼ばずして何と呼ぶ

(//080407)