みんなにばれてるくらい、わたしはルルーシュを見てる。でもまともに話したことは、あまりない。恥ずかしくて恥ずかしくてしょうがないから、正面から彼の瞳が見れないのだ。前に、彼のいたずらっ子のような笑みを見たけど、その時もまるで顔だけに体温が集まってしまったみたいに、熱くなってしまった。そうなってしまったことも、恥ずかしい。だから、わたしは横顔だけで充分だ。まるで磨きあげられた剣のような勉強中の真剣な眼差しとか、居眠りしてる時の柔らかそうな長い睫毛とか、稀に声をたてて笑う彼の綺麗な笑顔とか、ナナちゃんに向ける本当に優しい微笑みとか。(あんな笑顔向けられたらわたし)(きっと死んじゃう)みんなみんな横顔だけど、大好き。だから、横顔だけで満足できる。そう思っているはずなのに、見ていたら彼と目 が合わないかななんて思ってしまっているから、わたしは矛盾だらけだ。もしかして、この想いも間違って出来たもので、矛盾に塗れた物なのかもしれない。なにが本当なのかも分からない世界だ。こうやって、気持ちまで嘘で固められていてもおかしくない。 「」 「!…なに?」 「会長から、資料渡してくれってさ」 ルルーシュがわたしの目の前に立って、数えれば100枚くらいになりそうな膨大な量の紙を差し出している。いつもルルーシュが近くにいるだけで胸がきゅうっと締まるのに、ましてや今、彼がとても近くにいるこの状況は苦しくて苦しくて仕方がなかった。自然とわたしの視線は下へ下へと沈んでいく。そしてわたしは彼の 顔を見ないで「ありがとう」とルルーシュの真っ黒な靴にお礼を言って資料を受け取った。靴も綺麗だ。それにしても、今のわたしの反応はあからさま過ぎただろうか。だからといっても、すぐに直せるものでもないと思うし、しょうがないものだとも思う。ルルーシュが存在して、わたしのこの矛盾した想いが募る限り、それはずっとずっと続くだろう。(でも)(でもね)ルルーシュの目を見ないまま、避けたようなことばかりして、嫌われたり、なんてしたらどうしよう か。 というか、今ふと気付いたのだがルルーシュはわたしに何か用事があるのだろうか。無事資料を渡せたわけだし、他に何もないはず、だよね?今のわたし達は、お互い喋らないままで向き合ったいるだけだ。いつも賑やかなはずの廊下がやけにしんとしていて、わたしは震えそうになる。まるで、忍び足でさえも響いてしまいそうだ。「………」どうして帰らないの、そう聞きたくて、少し、すこしだけ顔を上にあげた。見慣れた黒の制服が目に入る。勇気を出してみたけど、さすがにルルーシュの顔は見れなくて わたしはそこで視線を止めた。また顔に血が集まって、耳元まで熱くなる。それをルルーシュに見られているような気がして、わたしは素早く右手で隠すように耳を押えた。触ってみて、やっぱり熱い、と思った。 「…は、」 「!ひゃ、はい!」 「シャーリーとも、会長とも、リヴァルとも仲がよかったよな」 「…?う、ん」 急にかけられた声に驚いて変な声を出してしまったわたしを笑うわけでもなく、ルルーシュは淡々と、まるで物語を語るように、言葉を告げていく。なにが言いたいのだろう。彼の話し方は本軸に触れないように周りから攻めているようにも思えてわたしは余計に首をかしげる。そうしていると、ルルーシュが少し黙った。その後に、彼は決意をしたように、困ったように、言った。 「なあ、俺の事嫌いか?」 きらい。きらい。きらい。 、きらい?きらい、とはあの嫌い、だろうか。ルルーシュのその言葉に驚いてわたしが顔をあげると、いつも優しく、時には自信満々にあった眉が、泣きそうなくらいに曲がっていた。紫紺色の瞳も細く、歪められている。大好きだった彼の横顔だって、きっと今は好きじゃない。だって、わたしが彼をこんなにさせているのだから。「違うの、そうじゃない」消え入りそうな声で告げて、ふるふると首を振る。またわたしは俯いた。 「嫌いなんじゃなくて、わたしは、」 「…」 ふわりと優しくわたしの肩にルルーシュの両手が置かれた。いつもは冷たい彼の手が暖かかったのと、急に手が置かれたことにわたしはまた顔を真っ赤にさせる。 「俺の目を見れるか?」 「……み、みれ」 がくがくする。どうしてかは分からない。いつもよりルルーシュが近いからなのか、彼の瞳を見ることが苦しくて仕方な いのか、どっちかだとは思う。黒い制服、の詰襟、ルルーシュの髪の襟足、あご、はな、彼の、瞳を見た瞬間にわたしの瞳にはルルーシュしか映らなくなった。唇に熱がともって、まるで熱かった身体が唇を通してルルーシュに伝わってしまっているようだ。ちゅっ。可愛い音をたててルルーシュの唇は熱と一緒に逃げていった。呆然としたわたしは俯くことも忘れてルルーシュを見つめる。 「ほら、見れるじゃないか」 彼が浮かべたのは本当にやさしい優しい笑み。ああ、このまま死んでしまいそうだ。 |