恋の自覚編




「――――であるからして」

教卓の前に立っている先生が、名前しか知らない人物の事を長々と語っている。会った事も無い人のことを語り尽くせるのだから、教師というものは凄い。意欲とか、記憶力とか。けど興味のない人のことを長々と語られるのは飽きてくるもので、わたしは教師の話など上の空で窓の外を見た。今日はぽかぽかと天気が良い。中庭で寝たら気持ち良いかも、と午後の計画を立てていたわたしに一人のクラスメイト――ルルーシュ・ランペルージ――が目に入った。

わたしの左隣りの席にいる彼は、手をおでこに当てて目をつぶっている。彼がこのポーズを取っている時は完全に眠っているのだ。起きてるときも大概だが寝てる時も格好つけである。この格好だけで女子の好感度ポイントを上げていることを、彼は分かっているのだろうか。既に授業を全く聞く気が無かったわたしは暇なのを良い事に、まじまじとルルーシュを見始めた。眠っているはずなのに、目線がノートの方を向いているせいで問題の答えを考えてるみたいに見える。思わずわたしはその姿に感嘆してしまう。あまりにも様になっていて、本当に寝ているのか疑わしい程の表情だが、彼の友人であるリヴァルが「ルルーシュ?実は寝てるんだぜ、これ」と言っていたので眠っている事に間違いは無いだろう。(……わ)髪や、顔などをまじまじと見ていたわたしの視線は、彼の指で止まった。スラリとしなやかにのびているそれは、吸い寄せられるようにわたしの視線を奪った。思わずわたしは、自分の指とルルーシュの指を見比べる。どうしよう、あんなに綺麗じゃないしあんなに長くない。女の子である自分より長くて綺麗だなんて罪だ!ルルーシュにそう告げれば一方的で理不尽だと言われそうだ。(そういえばメイドさん居るって言ってたっけ)(だから手も荒れないのね)そっか、と勝手に納得しながらもう一度ルルーシュを見た。

「…そんなに見られると困るんだが」

びっくりして、わたしは彼の指から顔へと視線を移らせる。そうすると、紫色の瞳がぱっちり開いてこっちを見ていた。もしかして、今までのことを全て見られていたのだろうか。そう考えると、恥ずかしさと悔しさが同時に込み上げてきた。気づいているなら、言ってくれればいいじゃない!

「…いつから起きてたの」
が窓を見始めたあたりからだな」

つまりは最初からじゃないか。何だか悲しくなって溜め息を吐く。どうして、皆こんな性悪が好きなんだろう。ルルーシュが廊下を歩くだけで、行き交う女子たちが頬を赤く染めて彼を見つめている光景を、わたしは良く目にしている。クラスの女子だって、ランペルージ君かっこいいわよね、だなんて会話をよくしていた。確かに顔はいい。そりゃあ指も綺麗よ。けど、性格がこれならどうかと思う。みんな肝心なところが見えてない!

「…見られてるの分かってるのに、どうして何も言わなかったの?」

わたしがそう言うと、ルルーシュはじっと見返して来た。食い入るような目線に少しドキりとさせられる。授業中じゃなければ、このまま逃げ出してしまいたかったのに.胸を高鳴らせているわたしを見透かしたのか、ルルーシュはふっと微笑みを浮かべて言った。

「好きな奴に見られて嫌な奴がいるか?」
「いないんじゃ………は?」

さらりと、告白まがい、いや、これは告白?その言葉に、わたしは息を呑んだ。いきなり何を言うんだこいつは。恨みがましくルルーシュを見れば、爽やかだった微笑みを消して、にやにやと笑っていた。(この…!)(殴ってやりたい!)その顔にむかつきを覚えながらも、わたしはどこかで嬉しく思ってしまっている。ルルーシュの綺麗な指が、わたしの手の上にやんわり置かれた。ゆっくり、本当にゆっくり、時が進んでいるよう。あぁ、どんどん深みにはまっていく。

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