「お名前はー?」 気が付くとが、5歳くらいの男の子供の前にしゃがみこんでそう聞いていた。いつの間に、彼女は子供を産んだのだろう。そう思ってしまってもおかしくないくらい、と子供はなんというか、似合っていた。相性がいいのだろうか。の目の前で子供は、一人で泣きわめいていた時と同一人物だとは思えないくらい、笑顔を浮かべていた。まるで彼女の周りに花が咲いたようだ。今までは騒音を撒き散らすだけのものとしか思えなかった子供も、彼女と一緒ならいいもののように見えてくる。黙ってその光景を見つめていると、どことなく顔も似ているように見えてきて、ぶんぶんと俺は首を振る。そんなわけはない。あれは、迷子であって、断じて俺たちの子供じゃない。(…俺たち?)(とにかく俺のでもの子供でもない!) 火原先輩から「ね、遊園地のチケットいらない?」と話しかけられたのはつい先日。そう言いながら先輩は、ひらひらと二枚のチケットを俺の目の前でチラつかせた。「先輩が行けばいいじゃないですか」とそのチケットに大して興味も無かった俺は、目の前にいる火原の横を通ろうとした。「行けなくなったから聞いてるんだよ!俺だって本当は行きたかった…!」そういって先輩は俺の背中から抱きついた。大きな瞳に少しの涙が見えたような気がして、少しぎょっとする。しょうがないので話をちゃんと聞くと、先輩の持っているチケットはどうやら一日限定のフリーパスチケットで、前々に買ったは良いが、残念ながらその日にどうしても外せない用事が入ってしまったらしい。それで、このチケットを譲り受けてくれる人がいないかどうか探していたようだ。「月森くんならタダでいいから!」売りつけようとしていたのか。「ほら、ちゃんでも誘ってさ!行きなよ!」その名前に俺は、思わず反応してしまう。あまり俺は遊園地など行った事もないし、大して行きたいとは思わなかったが、彼女は行きたがるだろうか。「ね!じゃあ、楽しんできて月森くん!」気づけば、俺の手の中にはさっきまで先輩が持っていたチケットが二枚。遊園地のマスコットキャラが、こっちを見て楽しそうに笑っていた。全く可愛げがない。 せっかくなのでそのチケットを理由にを誘ってみれば「遊園地?行く行く!」と快く返事をしてくれた。だから、俺はこうして彼女とここにいる。傍から見ればこれは確実にデートだろう。彼女がそう思っていてくれているのかは分からないが、俺はそう思っている。少しだけ、だけれど。「ねえ月森くん、この子、『れん』って言うんだって。漢字は分からないけど一緒だといいね!」とがその子供と手をつなぎながら俺に言った。同じ名前。その事実に驚きながらその子供、レンを見るとレンは俺と目が合った途端、顔をくしゃくしゃにして泣いた。 「あれ、月森くんの顔見たらぐずった」 「…そんなわけは、」 ない、と俺はしゃがんで子供の目線と合わせる。レンの目を見ようとしているのに、当の本人は嫌がってこっちを見ようとしない。どういうことだ。極めつけに「あのお兄ちゃんやだー!」とレンが泣き叫ぶ。少し傷ついているとがレンをなだめた。「怖くないよー意外にー」フォローしているつもりなのだろうが、彼女も、ある意味失礼だと思った。 そのままがレンと遊んでいると、母親らしき女性がやってきて、自分がレンの母親だという事を申し訳なさそうに説明してくれた。すっかり母親の陰に隠れて、未だにこっちを見ようとしないレンに「お母さんが見つかってよかったね、レンくん」とが微笑んだ。俺の名前を呼んだわけじゃないのに、そう聞こえてしまって少しどきりとする。「またね、お姉ちゃん!」レンの大きな声が遠ざかって、母親が深々と頭を下げながらレンを連れて行った。 「やっぱりわたしも子供欲しいなあ」 去っていく二人を見ながら、がぼそりとこぼした。風の音に負けてしまいそうなくらいの、小さな声だった。よく耳を澄ましていないと拾えなかった言葉だったと思う。しっかり見ていてよかった。「きっと、」と俺が口に出すとが「ん?」とこっちを見た。 「きっと、君に似たら、可愛らしいと思う」 「………それは、どういう」 心から、本当にそう思った。思ったことを言っただけだった。それなのにどうしてか、みるみるの顔が赤く染まっていく。夕陽にも負けず劣らずなくらい、真っ赤になったを見て、自分の言ってしまった言葉の意味をやっと理解する。「………」「………」理解してから、それが遅かったことに気づいた。恥かしさからか、何からなのかは分からないが、二人して、黙ってしまう。 「…ええと、素直に喜んでいいの、かな」 「……君の、自由にしてくれ」 ある意味で凶器
(//080302 title by 1204) |