「愛してる」


彼女がそれを零した小さな唇に頬を寄せると、唇の形がふにゃりと変わったのが分かる。ああ、人が微笑んだ時はこんな感触なのか。いや、彼女が微笑んだ時だけなのだろうか。今だ隣りで幸せそうに三日月型にしている彼女の唇を頬からずらして、自分の唇にくっつける。まるで、元は一つのものだったものを、再びそれに戻すように、執念に。


「……苦しいか?」
「……………そう、ね。苦しい。だって、」
「愛は苦しいものだ、だろう?」


は真ん丸と、まるで満月のように目を見開いて、それから微笑んだ。知っていたのか、とでも言うように驚いたその顔がかわいらしくて、思わずまた口付ける。


「グラハムの髪は、まるでお月様みたいね」
「ああ、」


じいと髪を見つめて、彼女は私の髪に手を伸ばす。くせのついた髪に指を絡ませながらは、ふんわり微笑んだ。月の光のような、ふんわりと柔らかい笑みに浸りながら、私も彼女の髪に触れた。そのとき、彼女の小さな口が開いて、言葉がつむがれた。

とおいとおい、あの綺麗なお月様には手が届かないけれど、この月には手が届くの。触れることも、愛することも出来るわ。ねえ、いつまでもわたしを照らしていてくれる?

まるで歌のようにきれいに流れていってしまったので、それが問いかけだという事に気付いたのは、少し後だった。その意味をしっかりかみ締めていると、なんだか嬉しくなってくる。笑っているともくすくすと笑い出した。また、三日月があらわれる。


「愛してる」


そして合言葉のようにそればかりを呟くと、ついばむように軽く耳を噛んだ。くすぐったそうに身をよじるの背中に片手をまわして、逃げられないよう力をこめた。余った右手で彼女のあごをつかんでキスをする。まん丸だ。


「愛してる、




のうさぎ

(//20080125)