まぶしい。あまりのまぶしさに私は、やっとの事で開いた目を細めてしまう。あまり機能していない頭を動かし、とりあえず周りを見渡すと、目の前では作戦資料が映し出されたパネルが光を点らせて異彩を放っていた。

ああ、眠ってしまったのか。ずり落ちそうになっていた毛布を肩にかけ直して、椅子から腰を浮かせる。パソコンが放つ光だけを頼りに、暗い室内をうろ覚えに歩いてブラインドを勢い良く開けた。それと同時に、さっきとは比べ物にならないくらいの光が部屋に飛び込んできて思わず顔をしかめる。

寝起きで少し崩れた髪に手を通して、ふと、肩にかけてある淡い水色の毛布に視線がいく。これは確かカタギリの部下であるの物だ。冷え性だから毛布は一時たりとも離せない、と冷えてしまった技術室でそれを言っていた、彼女の。どうしてとかそういう疑問よりも先に、自然と頬が緩むのが、自分でも分かる。この毛布をかけた覚えは無い。おそらく、寝ている間にがかけてくれたのだろう。

知らない間に彼女は近くに居て、居なくても、いて。まるで恋人は空気のようだ、と以前何かのテレビ番組で言っていたタレントがいたが――その時の私は馬鹿馬鹿しいとチャンネルを回した――、今になればそれは真理のほかならない。否定することのできない、普遍的で妥当性のある事実だ。全く恐ろしい。俺は彼女をなくしてしまったとき、どうするつもりなのだろうか。

ポットの中でこぽこぽと音を立てて沸騰しているコーヒーを、ゆっくりカップに注ぐ。コーヒーにはワインに似た覚醒作用があり、語源もそれからつけられている。ある意味、彼女は覚醒作用をもたらしているのかもしれない。カップに口をつけて、のどを鳴らしてから、ふと呟く。

「…ある意味、中毒なのかもしれないな」

何時からだったか。隣で微笑んでくれる様になったのは。素直に返事を返さない彼女に苛立ちながらも、満たされる自分に気付いたのは何時からだったか。思えば、初めて出会ったあの時から、自分の居場所は「ここ」だと決まっていた。彼女の笑顔も、困る顔も、ここに居る自分だけが得られる特権だと思っている。ここは、自分だけの場所。誰にも譲れない、指定席。

そんな事を考えていたら無性に彼女に会いたくなって、急いで上着を羽織っている私を見たら彼女は笑うだろうか、それとも呆れるだろうか。
まあ、どちらでもいい。きっと今頃はカタギリたちと一緒にフラッグの調整をしているはずだ。この毛布を返すついでにシュミレーションの好成績を残して、喜ばせてやる。



その感情はただ、恋でしかなかったのだ。