人間は本当に困った事にぶつかれば、どんな犯罪者だろうと善人だろうと、時が止まったかのように動かなくなってしまうものだと僕は思う。その困惑させている対象をどう対処するかでまた困惑し、意識がそれに集中してしまうからね。人間だけではなく、動物に対しても同じ事を言える気がするけれど。まぁとにかく、いま僕はその、困った出来心に衝突している。 三大超大国群である人類革新連盟やユニオン、AEU等に検知されてしまうのを防ぐため、宇宙空間に漂っている我らがソレスタルビーイングの母艦、プトレマイオス。その一室に僕と戦況オペレーターの一人である、はいる。それは偶然に彼女の休憩時点と僕の気まぐれが重なっただけで、約束をしていたとか待ち合わせをしたわけじゃない。悲しいけれど、鉢合わせだ。 最初、僕は休憩――椅子に座って食事を食べている――しているの隣で書類を眺めて彼女と話したりしていたけど、急に返事がなくなって、どうしたのかと横を向けば、突然彼女は僕の肩に頭を預けてきた。もちろん宇宙空間では重力がかからないから、肩には彼女の頭の重さはかからないけれど、いまの僕にはそんなことを考えている余裕なんてない。彼女の肩からふんわりとした花の香りがするたびに、心臓の鼓動が早まる。いま口を開けば言ってしまうだろう言葉は、きっと。どうしよう。だ。 「…?」 とりあえず名前を呼んでみたけど、いつもの笑顔が反ってこない代わりに、からは静かな寝息が聞こえた。こんなとき、どうすればいいのか。だなんてモビルスーツの説明書にも、いま手に握りしめている書類にも書いてない。こういうことに詳しい、というか慣れていそうなのはロックオンだろうけど、彼に相談するのは何か間違っている気もするし、今更そんな事を考えたってしょうがないだろう。とりあえず、いまは落ち着いて書類を読んでいる場合じゃない。(いや読んでいられない、かな。)でもだからと言って眠っている彼女を叩き起こすわけにもいかない。 ふと隣にいるを見たとき、長い睫毛が視界に入って、僕は固まってしまう。がらにもなく、きれいだ。なんて思ってしまった自分が恥ずかしくて、いますぐにでも目を逸らしたいのに、魅入ってしまってそらせない。そのまま僕は、吸い寄せられるように彼女へと近付いていく。花の香りが一層広がって、僕の頭をくらくらさせた。きっといま僕の顔は、真っ赤なんだろう。そして、寝息をたてて幸せそうにまどろむの唇を軽くついばんで、キスをした。花の香りが僕にも移って、もうどっちからそれが薫っているのか、分からない。どくん、と激しく脈を打つうるさい僕の心臓の音で、彼女が起きてしまわないかだなんて馬鹿な事を考えながら、また唇をあわせる。 彼女に、同意ももらってないのにこんなことをしたって言ったら、怒るだろうか。怒られるのは勘弁だけど、そんな彼女も見てみたいかもしれない。ああ、ほんと、 「ごめんね」 (傍にいるだけで満足できたなら) |